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ANDキャリア|2019

2019年正月からダイヤモンド・オンラインで僕と千葉智之さんの共著『キャリア未来地図の描き方』が再びフューチャーされた。2013年に出版された本だから、6年前に世に出したことになる。この本の中で僕らは、キャリアはライスワーク(生きていくためにお金を稼ぐ仕事)とライフワーク(やりたいことをとことん楽しむ活動)をペアでシナジーを生み出していくことが未来のスタンダードになるだろうと予測した。会社で出世を目的とした昭和的一本道のキャリアはストレス社会を招き、鬱になる会社員を量産する。僕や千葉も情報産業に属し、社会人の中では相当残業時間の負荷もある業界だ。しかし、僕らの周りにはストレスがありながらも不思議とみんな元気。その理由を探ってみると、本業とは別にライフワークを行うことでモチベーション・バランスを保ち、さらには会社のノウハウをライフワークに、ライフワークのノウハウを会社に持ち込んで、事業を飛躍的に伸ばしていた。このモチベーションとスキルのペア・シナジーこそが元気の秘訣だ。このペア・シナジーを僕らは「ANDキャリア」と呼ぶことにした。この「ANDキャリア」こそ、「やりがいといきがい」が共存する豊かな生き方だ、と考えたのである。この話、6年前はどうやら早すぎたようで、去年あたりからようやく本の内容と時代がマッチしたように思う。そこで、僕が「ANDキャリア」について、現在どう考えているのかを記しておく。

 

ANDキャリアの重要性が増している文脈は3つある。

 

1つは「ライフシフト」の文脈である。東洋経済新報社から発売され、ヒット作となったリンダ ・グラットンの『ライフ・シフト』には、2007年生まれの日本人の子供の平均寿命が107歳であるという衝撃的な報告がなされている。僕がいま龍谷大学で教えている学生たちは1997年〜2000年生まれだから、少なくとも彼らの半数は100歳以上生きていくことなる。これを前提に考えると、就職活動をしている学生たちには会社の定年が65歳だとして、勤め上げてから40年自力で生きていくために「ANDキャリア」でリスクヘッジをするように教えている。できれば大学生でいる4年間で自力でアイデアを出し、マネタイズする一連の「稼ぐ」プロセスを経験しておくことを「実験」しておくことを勧めている。この実験を通じて、どこに課題があり、何を勉強しなければならないかをリアルに実感したところから本当の社会科学は始まる。会社に入れば実感するが、部署に配属され、会社の一部として働くことになる。かっこよく言えば「分業体制の一翼を担わされている」わけだが、一方で問題は「ビジネスの全体が見えていない人材」であって、ビジネスリーダーとして事業を任される確率はかなり低い。また、どの業界も全体プロデュースができる人材が欠落しており、日本の人材問題は「プロデュース人材不足」である。しかし、会社で部分を担いながら、ライフワークを利用して「稼ぐ」プロセスを一通り実験しておけば、定年後、これまでの培ってきたライフワークをスムーズにマネタイズすることができる。ANDキャリアは目先の話ではなく、40年先を見据えたライフ・マネジメントであるとも言える。

 

2つ目は「イノベーション」文脈からである。ビジネス・イノベーションは異業種のビジネス構造を自社事業にマッピングすることで浮き上がることがある。この考え方はノースウエスタン大学心理学部のデドレ・ゲントナー教授が提唱している「Structure-mapping theory(構造投射法)」をヒントにしている。重要なのは、自社にはない「構造」を鏡のように映すことで、新しい事業アイデアを引き出すことである。ここでANDキャリアが有効なのは、本業とは全く関係ない活動をペアで行なっていることだ。ペアであるということは、モチベーションとスキルが行き来しやすい。そのため、新しいアイデアが浮かびやすくなる。もうすぐ平成も終わる。昭和的なビジネスモデルからの脱皮が課題となる中で、イノベーション人材は必要不可欠であり、教育体制から抜本的な見直しが迫られているが、社会人でも若いうちからANDキャリアでペア・シナジーを行えば、イノベーションスキルは自然に身につく環境になるはずである。

 

最後に「創造社会」の文脈からである。戦後、昭和から平成にかけて僕らの世界は「消費の物語」に取り込まれた。グローバル企業が世界をフラット化し、人々の暮らしから、これまで当たり前だった創造的な作業をプロダクトやロボットが代替していく。効率性、楽をすることが尊ばれ、人間の創造的な活動が自然と奪われてしまったかに見える。会社に属する僕らは消費の物語に組み込まれ、逃れにくくなっている。それはとても苦しいことだ。消費の物語から脱却し、創造の物語を僕らが取り戻すには、ANDキャリアで創造的なライフワークをあえて組み込むしかないように思える。何かを生み出す。それは何よりも喜ばしいことだ。それは老後からの話ではなく、むしろ今から「豊かなライフ・デザイン」を仕掛け、混沌とした世界でも飄飄と生きる人でありたい、と僕は思う。