とある企業研修で人事の方とランチをしていた時に「イノベーション」の話になった。イノベーションという言葉が持つイメージほど違うものはないなぁ、と思うくらい、人によって捉えている意味が違う。これには本当にびっくりする。スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのように革命的な事業とセットでイノベーションを語る人が多いからか、「いやぁ〜うちの会社なんて、全くイノベーションの(イ)字もなくて・・・」と謙遜する方も結構多い。
しかし、僕はイノベーションをシンプルに考えている。それは「これまでと違うビジネス構造を与えることによって、既存の事業体が全く違うものに変出すること」だ。そして、その変出した事業体が新しく価値を生み出すとき、イノベーションが起きたと考える。
企業内でイノベーションが起きにくいのは、ユニークで秀逸なビジネス構造体の知見が少ないことが主たる理由だ。例えば、ファンコミュニティを強くしたいというのであれば、スノーピークのカードシステムを持ってくれば、一気に自社の顧客エンゲージメントを強くするヒントが湧いてくる。しかし、カードシステムの構造を知らなければ、イメージすら浮かんでこない。ゆえに、外を見る、異業種のトレンドを知る、ビジネスモデルを分析することが大事になる。僕が日経ビジネススクールで発想法を教えるとき、あえて具体的なビジネス構造を提示して、事業体を変出させるワークを行う。このワークはめちゃくちゃ面白く、みんな開眼したように意見を出すようになる。
もしかしたら、フレームワークも重要となる構造体を与えることで、イメージが湧いてくるツールなのかもしれない。こう考えると、ビジネス構造のバリエーションをたくさん持ち、あらゆる変化の場面に対応できることが、ビジネスマンとして「しなやかに生きる」必須要素なのかもしれない。
「V字回復の経営」や「経営パワーの危機」の名著で知られる三枝匡さんは、新著「ザ・会社改造」の中で、ビジネスリーダーはフレームワークを知り、使いこなせなければならないと言っている。この意図は、まさにあらゆる変化の場面に対応し、「しなやかに生きる」ことなのかもしれないと私は考えている。